ボスニア・ヘルツェゴビナのサッカーリーグのまとめ
ボスニア・ヘルツェゴビナのサッカーリーグについてまとめてみました。
◆公式サイト
https://www.nfsbih.ba
◆連盟
欧州サッカー連盟(UEFA)
◆1部リーグ名称
プレミイェル・リーガ(Premier League of Bosnia and Herzegovina/Premijer liga Bosne i Hercegovine/Премијер лига Босне и Херцеговине у фудбалу/Premijer liga Bosne i Hercegovine)
◆所属チーム数
12
◆試合形式
リーグ戦(1ステージ制/ホーム&アウェー3回戦総当たり)
※試合数33
◆開催期間
7月中旬〜
◆移籍期間
2021〜2022年シーズンは6/1〜8/13と1/1〜1/29
◆順位決定方法
勝ち点→得失点差→総得点→直接対決での勝ち点→直接対決での得失点差→直接対決でのアウェーゴール数(関与するのが2チームだけの場合)→直接対決での総得点 →フェアプレーランキング→抽選
※優勝チームやUEFAの国際大会への出場チーム、降格チームを決める場合は得失点差と総得点は考慮されない
◆チャンピオンズリーグ枠
0.0625(プレミイェル・リーガ優勝チームはUEFAチャンピオンズリーグ予選1回戦に参戦)
※プレミイェル・リーガ準優勝、3位のチームおよびボスニア・ヘルツェゴビナカップ優勝チームはヨーロッパカンファレンスリーグ予選1回戦に参戦
◆2部リーグ
◇ボスニア・ヘルツェゴビナ連邦1部リーグ(First League of the Federation of Bosnia and Herzegovina/Prva nogometna liga Federacije Bosne i Hercegovine/Прва лига Федерације Босне и Херцеговине у фудбалу/Prva nogometna liga FBiH)
ボスニア・ヘルツェゴビナ連邦に存在する16チームが所属。ホーム&アウェー2回戦総当たり。
◇プルヴァ・リーガ・レプブリケ・スルプスケ(First League of the Republika Srpska/Prva nogometna liga Republike Srpske/Прва лига Републике Српске у фудбалу/Prva nogometna liga Republike Srpske)
スルプスカ共和国に存在する16チームが所属。ホーム&アウェー2回戦総当たり。
◆昇降格枠
降格枠は2で昇格枠は各リーグに1ずつ(プレミイェル・リーガの11位、12位のチームが自動降格。ボスニア・ヘルツェゴビナ連邦1部リーグとプルヴァ・リーガ・レプブリケ・スルプスケの1位のチームが自動昇格)
◆それ以外の大会
◇ボスニア・ヘルツェゴビナカップ(Bosnia and Herzegovina Football Cup/Kup Bosne i Hercegovine u nogometu/Куп Босне и Херцеговине у фудбалу/Nogometni kup Bosne i Hercegovine)
プレミイェル・リーガなどの32クラブが参加するトーナメント方式の大会。基本的に一発勝負だが準決勝と決勝はホーム&アウェー方式で実施。プレミイェル・リーガ勢も1回戦(ラウンド32)より参戦する。9月下旬より実施。
◆平均入場者数
2,117人(2020-2021年シーズン)
◆チーム名
FKボラツ・バニャ・ルカ(FK Borac Banja Luka/FK Borac Banja Luka/ФК Борац Бања Лука/FK Borac Banja Luka)
FKレオタル(FK Leotar/FK Leotar/ФК Леотар/FK Leotar Trebinje)
HSKポスシェ(HSK Posusje/HŠK Posušje/НК Посушје/HŠK Posušje)
FKラドニク・ビイェリナ(FK Radnik Bijeljina/FK Radnik Bijeljina/ФК Радник Бијељина/FK Radnik Bijeljina)
FKルダル・プリイェドル(FK Rudar Prijedor/FK Rudar Prijedor/ФК Рудар Приједор/FK Rudar Prijedor)
FKサラエヴォ(FK Sarajevo/FK Sarajevo/ФК Сарајево/FK Sarajevo)
FKスロボダ・トゥズラ(FK Sloboda Tuzla/FK Sloboda Tuzla/ФК Слобода Тузла/FK Sloboda Tuzla)
NKシロキ・ブリイェグ(NK Siroki Brijeg/NK Široki Brijeg/НК Широки Бријег/NK Široki Brijeg)
FKトゥズラ・シティ(FK Tuzla City/FK Tuzla City/ФК Тузла Сити/FK Tuzla City)
FKヴェレジュ・モスタル(FK Velez Mostar/FK Velež Mostar/ФК Вележ Мостар/FK Velež Mostar)
HSKズリニスキ・モスタル(HSK Zrinjski Mostar/HŠK Zrinjski/ХШК Зрињски/HŠK Zrinjski Mostar)
FKジェリェズニチャル・サラエヴォ(FK Zeljeznicar Sarajevo/FK Željezničar Sarajevo/ФК Жељезничар Сарајево/FK Željezničar Sarajevo)
◆最近の概要
新型コロナウイルスは東欧の波瀾万丈のこの国のサッカー界にも更なる困難をもたらした。
2019-2020年シーズンのプレミイェル・リーガはコロナ禍のため延期し、6月上旬にいきなり打ち切られた。この時22節を消化していたので、このシーズンに限り2回戦総当たりで国内リーグが実施された事になる。ちなみにボスニア・ヘルツェゴビナカップの方は準々決勝終了時点で打ち切りが決まった。続く2020-2021年シーズンのプレミイェル・リーガの開幕は8月上旬にずれ込んだ。ボスニア・ヘルツェゴビナ(これ以降単に「ボスニア・ヘルツェゴビナ」とだけ記載されていれば、国家としてのボスニア・ヘルツェゴビナを指す)の高地と北部の冬は寒く、3日に1日は雪が降る厳しめの気候なので国内リーグには12月上旬から2月下旬までウィンターブレイクを入れるのが通例だが、このシーズンでは開幕が遅くなったので、ウィンターブレイクの始まりが12月中旬になり、全体的に日程が圧縮された。またこのシーズンではコロナ対策のため一部の試合が無観客で開催された。
1990年代に勃発したボスニア・ヘルツェゴビナ紛争が影を落としている。サラエヴォ等の都市部に関しては復興の過程にあるが、1984年のサラエヴォ冬季五輪の会場になったスタジアムの大半は廃墟になったままで、中には共同墓地になってしまったスタジアムもある。元々農業が貴重な収入源だったが、この紛争で農業ができなくなった土地が多く、2人に1人は失業しているとも言われていて多数の移住者を出してしまっている。プレミイェル・リーガ加盟クラブのホームスタジアムも収容人員1万人未満の観客席の少ないスタジアムが大半を占めていて、基本的に懐具合が厳しい。ただし先述の五輪の開会式の会場になった34,500人収容可能なアシム・フェルハトヴィッチ・ハセ競技場をホームスタジアムとしているFKサラエヴォだけはもしかしたら例外かもしれない。
民族紛争に悩まされてきた国であり、サッカー界にもその影響が色濃く現れている。ボスニア・ヘルツェゴビナの国内リーグの大きな特徴は2部リーグ以下が分裂している事だ。ボスニア・ヘルツェゴビナはボシュナク人とクロアチア人を主体とし大半の住民がボスニア語を話すボスニア・ヘルツェゴビナ連邦と、セルビア人を主体とし大半の住民がセルビア語を話すスルプスカ共和国、および両者の中間地帯のブルチコ行政区の3つの構成体から成る。ボスニア・ヘルツェゴビナは国土を実質的にボスニア・ヘルツェゴビナ連邦とスルプスカ共和国に二分されている。つまり「ボスニア・ヘルツェゴビナ連邦とスルプスカ共和国の2つの非独立国を無理やり集めたのがボスニア・ヘルツェゴビナという1つの独立国」という言い方ができる。サッカー協会もそれぞれ別々だったので2011年の4月にFIFA、UEFAから資格を停止された。その後に正常化委員会が設立され、会長を一本化させた事で5月末に資格停止が解除され、ボスニア・ヘルツェゴビナ代表は2014年のブラジルワールドカップに出場できた。クラブチームの大会でも1部リーグだけは一本化されているが、2部リーグは民族的な理由で二分されている。プレミイェル・リーガとボスニア・ヘルツェゴビナ連邦1部リーグをボスニア・ヘルツェゴビナサッカー連盟が、プルヴァ・リーガ・レプブリケ・スルプスケをスルプスカ共和国サッカー協会が統括している状態であり、民族問題の根の深さを感じさせる。
これらの事情は当然1部リーグのクラブの方針やチーム構成にも影響を及ぼしている。プレミイェル・リーガにはオーストリア人選手やイングランド人選手等を所属させているFKサラエヴォの例外はあるが、基本的に外国籍選手の数は少なく、外国籍選手はセルビア人、クロアチア人といった東欧人選手でほぼ占められている。地域ごとに住民の民族が細かく決まっている国柄であり、それはサッカークラブも同様だ。サッカークラブには本拠地が有るので、プレミイェル・リーガにおいてもボスニア・ヘルツェゴビナ連邦とスルプスカ共和国の2つの構成体のクラブに分かれている。ボスニア・ヘルツェゴビナにあるクラブのエンブレムには文字が必ず記載されている。その文字の言語を見ればどちらの構成体のクラブかは一目瞭然だ。ラテン文字(要するにアルファベット)で記載されていればボスニア・ヘルツェゴビナ連邦に存在するクラブであり、キリル文字(要するにロシア文字)で記載されていればスルプスカ共和国に存在するクラブである。後者のクラブチーム(FKボラツ・バニャ・ルカ、FKレオタル、FKラドニク・ビイェリナとFKルダル・プリイェドル)は当然セルビア人選手の比率が高い傾向を持つ。前者のクラブチームの中でHSKポスシェ、NKシロキ・ブリイェグとHSKズリニスキ・モスタルの3つはクロアチア系のクラブであり、エンブレムに市松模様が入っている。これらのクラブにはやはりクロアチア人選手が多く在籍している。この様にリーグの人種構成が複雑なので、当ブログのこの項に関しては外国語表記を英語、ボスニア語、セルビア語、クロアチア語の順で記載した。
2020-2021年シーズンのプレミイェル・リーガは1部リーグ復帰2年目のFKボラツ・バニャ・ルカが優勝し、プレミイェル・リーガ強豪の1つであるFKサラエヴォの連覇を2で止めた。特定のチームがタイトルを独占する状況ではなく、群雄割拠の状態である。1試合当たりの観客動員数も2018-2019年シーズンは1,738人、2019-2020年シーズンは2,689人と人数自体は少ないながらも伸び代を感じさせる。ちなみにボスニア・ヘルツェゴビナの首都サラエヴォはジェフ千葉や日本代表などでも監督を務めたイビチャ・オシムを産み出した場所であり、国民のサッカー熱は決して低くない。
いつかサッカーが人々の傷を癒す日が来るのを望んでいる。
◆最終更新日時
2021/11/4
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