自由席のないサッカーの試合を考える

新聞や地上波テレビで話題になっている気配のない、ある1つの試合がネットでサッカーファンからの注目を集めていた。

7月27日に行われたばかりの、ヴィッセル神戸vsFCバルセロナの試合だ。

FCバルセロナは、言わずと知れた世界を代表するサッカークラブである。
メッシやスアレス等の大物を擁する事で知られている。

ヴィッセル神戸の親会社的な存在である楽天は、FCバルセロナのスポンサーでもある。
その関係で、去年スペイン代表だったイニエスタのバルサから神戸への移籍に成功した。

さて、試合会場であるノエビアスタジアム神戸での観戦ルールが、ネット上で炎上に近い話題になっている。

【禁止事項】

・応援幕の掲出
・大旗振り
・席や通路に立っての観戦
・鳴物全般

この試合では全席指定席。
それも着席での観戦。

つまり応援グループが応援体制を取るのは不可能だ。

Jリーグを見慣れた人にとって、これは非常に珍しいルールである。
Jリーグでは、自由席であるゴール裏にサポーターズグループが陣取って、一斉にチャントを歌うのが一般的だ。

なぜバルサ戦だけ「独自ルール」でやるのか?

無理やり一言で片付けると「楽天が絡んだ大会だから」というのが答えになる。

この試合はRakuten CUPとして開催されている。

神戸は、というより楽天の社長の三木谷は招いている立場だ。
普段通りの環境に近づけて、「来客側」に気持ちよくプレーしてもらう努力をする。

これは当然といえば当然。

ただゴール裏のグループでの応援に慣れているサポーターの中で、この試合での応援スタイルを快く思わない人は多いだろう。

「三木谷は金の亡者だ」
「三木谷はサッカーを軽視し、金の事ばかり考えている」

そう片付けると、話はそこで終わってしまう。

Rakuten Cupでの観戦ルールは「欧州ルール」だ。
バルサが所属するスペインのラ・リーガはもちろん、イングランドプレミアリーグなどの欧州を代表する国内リーグには日本のような組織だったサポーターズグループがスタジアム内ではあまり表に出ず、サポーター個人から自然発生的にチャントが起こるのが一般的だ。

なぜサポーターズグループの組織的な迫力ある応援を否定するのか?
なぜ欧州はこんなルールを取り入れたのか?
そうしなければいけなかった状況に至った文化的背景は?

そういう事を考えてみれば、サッカーの見方に深みが出るのではないか?
異文化だからと言って、何でもかんでも食わずに吐き出すのは良くない。

そもそもああいうルールで欧州サッカーはビジネスとして成立している。

先ほども述べたが、全席指定席にするとサポーターズグループによる組織的な応援ができなくなる。

誤解しないでほしいが、俺はグループのリーダーが指揮を執って迫力あるチャントを繰り出す今の応援スタイルを無くしてほしくない。

日本式の応援スタイルを続けるために何をしなければいけないか?
何をしてはいけないか?

それを欧州の事例から学んで活かそう。

そういう機会を三木谷が提供したと考えれば、この大会の意義も出てくる。

イングランドのスタジアムは、かつてはJリーグの様にサポーターズグループがゴール裏を陣取っていた。

そこに続けざまに事件が起こる。

1985年にサポーターズグループ同士の衝突が原因でヘイゼルの悲劇が起き、39人が死亡した。

1989年に警察の観客誘導の失敗が原因でヒルズボロの悲劇が起き、96人の命が犠牲になった。
原因が警察にあるにもかかわらず、悲劇が発生してからしばらくは、凶暴化したサポーターを批判する世論が続いた。

イングランドのクラブは、欧州の大会から締め出された。

失った信頼を取り戻すための対策が、スタジアムから自由席をなくす事だった。

全席指定席化して事件を起こすサポーターを特定しやすくした。
こうしてイングランドのサッカー協会はフーリガンをスタジアムから追い出した。

バルサのホームであるカンプ・ノウにも、自由席は見当たらない。
ラ・リーガの試合では、アウェーサポーター席すら無いという。

バルサは世界的に注目度が高い。
エル・クラシコ等のヒートアップする試合だってある。

自由席のない過熱化防止策を取った試合環境には、慣れている。

さて、Jリーグ。

こういう経緯を踏まえてJリーグを観る際、懸念している事がある。

SNSがモノを言うようになった今、Jリーグでも近い将来全席指定席化に踏み切らなければならない程の事件が連発するのではないか?

ただ単に気に入らないサポーターを、SNSで叩く。
人叩きが大好きな者が、その意見に同意する。
その者達が毎週スタジアムで会って、情報交換する。
その者達はゴール裏の古株だったりする。
排他的な意見がゴール裏の正義となり、それとは異なる意見を持つ者をSNSで徹底的にネットリンチする。
ネットに画像を上げたり職場や自宅に徹底的に嫌がらせしたりする。

こうして少数のサポーターがスタジアムに行けなくなった事例が、残念ながら複数のクラブで出てきている。

日本は多数派と異なる意見を許さない同調圧力旺盛な社会である。
そう考えると、この問題はJリーグのどのクラブでも起こりうる。

排除されるサポーターの中には、黙ってスタジアムから去る穏健な人達ばかりではないだろう。
「どうせ追い出されるならせめて一太刀」と、スタジアムで暴れ回る事も考えられる。

そうして犠牲者が出かねない程のトラブルがあちこちで起きたとする。
そうなるとJリーグも全席指定席化に踏み込まざるを得なくなる。

イングランドサッカーが全席指定席化した時は、もちろんSNSはなかった。

ただSNSがなくても犯人は特定できる。
SNSがフーリガンの暴動化を加速させる。

SNS、特にツイッターは憎悪拡散装置だ。

「アイツ嫌い」という理由だけでネットリンチ出来てしまう野蛮な場所だ。

今までにない程、SNSの利用は加速している。

今まで起こらなかった事が、日本でも起こりうる。

浦和レッズでは、クラブ史上最悪の事件が起きた時に埼玉スタジアム2002を全席指定席化を検討していた時期が有った。
その流れで、それまで有った全てのサポーターズグループが一度解散に追い込まれたことも有った。

一部のサポーターの心ない言動が、スタジアムからダイナミズムを奪い去る。

「自分さえ良ければ」はやめよう。

どうか節度ある応援を。

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