苦しい状況を変えるには結果を出すしかない
今シーズンに入るオフにセレッソ大阪から浦和レッズに加入したFWの杉本健勇が、移籍後初ゴールを決めた。
公式戦7試合目にしての初ゴールだ。
2013年に興梠慎三が鹿島アントラーズから移籍した時も、初ゴールを挙げるまでが長かった。
興梠の場合は、公式戦10試合目だ。
興梠が初ゴールを挙げた時には、既に彼のチャントが出来上がっていて歌われていた。
健勇の初ゴールの場合は彼のコールをサポーターが叫んだが、彼のチャントは歌われていなかった。
と言うより、そもそも健勇のチャントはまだ出来ていない。
別に健勇にレッズサポーターが冷たくしている訳ではない。
移籍直後のこの段階での選手のチャントは、レッズの場合はないのが普通だ。
どんなに大物選手であろうと「個人チャントを作るのはある程度の活躍をしてから」という暗黙の了解がレッズサポーターにはある。
興梠が例外なのだ。
と言うより、ある意味では興梠は既に活躍していた。
彼が浦和に加入する前の2012年終盤では、敵陣深くでボールをキープして味方の攻め上がりを待って厚みのある攻撃を作れる選手がいなかった。
そのせいで随分と苦戦していた。
その役割を、加入したばかりの興梠が完全に埋めていたのだ。
彼に足りなかったのは、ゴールだけだった。
だからノーゴールのFWにもかかわらず、興梠にはチャントを歌ったに過ぎない。
健勇の場合はそういう訳ではない。
2012年の時のような分かり易すぎる攻撃の穴はない。
だから健勇こそ、ゴールが必要だった。
だがこの試合のセレッソ大阪戦の後半途中まで、ゴール数どころかシュート数すらゼロだった。
シュートしなければ、絶対にゴールは産まれない。
結果が伴わなければ、追い詰められるもの。
そして迎えたPK。
逆転のチャンス。
古巣相手に敵地。
蜂の巣を突いたようなセレッソサポーターのブーイングと悲鳴。
究極の逆境だ。
もし失敗したら、健勇は「浦和の街を歩けない」と思い詰めていたに違いない。
それでも逆境に立ち向かうこういう選手を、レッズサポーターは応援する。
似た状況を経験した選手がいた。
北海道コンサドーレ札幌に移籍してしまった駒井善成がそうだ。
2016年のACLラウンド16の第2戦、FCソウル戦のPK戦。
他のベテラン選手がPKキッカーになるのを避けていた中、まだ浦和に加入して間もない駒井はキッカーを引き受けたのだ。
その時の彼のPK自体は残念極まる結果に終わってしまった。
だがあのワンプレーで駒井を浦和の漢だと認めたレッズサポーターは少なくないだろう。
駒井も健勇と同じ様に逆境に立ち向かったからだ。
健勇のPKの時に本人が感じていたであろう精神的重圧は、おそらくFCソウル戦での駒井のそれを上回る。
そんな究極の逆境の中でのPKを決めて、健勇もホッとしただろう。
古巣相手だったからなのか、控えめで噛みしめる様なガッツポーズをしてみせた。
試合後のインタビューでは、涙を堪えていた様に俺には見えた。
背負ってきた重圧の凄まじさを物語る。
浦和の漢は結果で語る。
結果が説得力を持つ。
この日活躍した山中にしてもマルティノスにしてもそう。
結果が未来を明るくする。
苦しい状況を変えたければ、結果を出すしかない。
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